小学校1年生のときにお祖父様を亡くした米谷友里(よねやゆり)さん。その出来事がきっかけで看護師の道を目指したそうです。
20歳になり、晴れて看護師としてのキャリアをスタート。しかし、突如として始まった祖母の介護。仕事と介護で心身ともに疲弊した中で、ふと目にしたポリッシュが『福祉美容ルクミ』の立ち上げに繋がる。
”美容”と聞くと見た目が綺麗になるのは想像できますが、”福祉”の立場から携わる米谷さんの存在価値、提供したいものをお聞きしました――。
祖父が遺した言葉
――本日はよろしくお願い致します。お祖父様を亡くされたことで目指した看護師ですが、当時の記憶は今も鮮明にありますか?
米谷 今もまだ鮮明に覚えています。子供の頃、よく祖父のお腹の上に乗るのが好きでした。それが突然、急に嫌がられるように…。病院で検査すると大腸がんステージ4が発覚。既に腫瘍は全身に転移していました…。
祖父は『最期まで自宅にいたい』と言ってましたが、賢明な自宅治療の末、最期は病院で看取って頂きました。
子どもながらこの言葉が脳裏から離れなくて…。『もっと早く変化に気付いていれば…』、『医療知識のある家族がいれば…」そうした後悔から、患者さんの痛みのわかる、最期まで悔いなく人生を全うできるようなお手伝いがしたいと思い、看護師を目指しました。
米谷友里(よねやゆり)1996年3月28日生まれ埼玉県出身。
高校卒業後、看護師として働き始める。これまで急性期病棟、地域包括病棟、治療病院、リハビリ病院、訪問看護を経験。2022年2月『福祉美容ルクミ』を立ち上げ、狭山市、川越市、入間市などを中心に活動中。以下、写真米谷さんからご提供。
昼は仕事、夜は介護
――5年制の看護学校に通い、20歳の時に看護師として働き始めました。様々な現場を経験されていく中で、次はお祖母様の介護が始まったそうですね?
米谷 当時、80歳の祖母に胆管癌が見つかり手術が行われました。術後も胆管炎を起こし、二週間ほど38度の熱が出るなど緊迫した日々を送っていました。
安静療養だったため、病室で寝たきりの祖母。筋力低下に伴い、車いす生活を余儀なくされました。ようやく迎えた退院日、1か月半ぶりに会った祖母はうつろな目で別人の様でした。
以前までは、私の顔を見たら名前を呼んでくれましたが、「んー…」と思い出せない様子。認知症を発症していました…。
その日から、日中は勤めている訪問看護ステーションで看護。夜は祖母の介護が始まりました。日中一時間訪問看護師の訪問があるものの、夕方の腸ろう栄養剤の交換(腸から直接栄養を注入する)、夜間のトイレ介助、時にはおむつ交換…。看護師の私でも混乱するほどパニックになりました。
介護美容研究所卒業時のお写真
孤独の中で見つけた”ポリッシュ”
――普段のお仕事と並行して行う介護。心身共に疲弊していったのではないかと想像します…!
米谷 介護はとても孤独で、社会から取り残された感覚に陥ります。どれだけ介護しても褒められる日は来ません。まして、私を癒してくれるところはどこにもありませんでした。
そんな時に、ふと棚に置いてあったポリッシュに目がつきました。『最近おしゃれもしてないしな…』と自分の手にネイルをしました。
それをぼーっと見つめる祖母。試しに爪に塗ってみると笑顔になったんです。そのまま買い物に出かけ帰宅すると、眉毛だけメイクした祖母がいました。
綺麗になった姿を見て、涙を堪えるのに必死でした。
それから定期的に美用施術をすると、暗い服から赤やピンクといった明るい服を着るような変化が。それに加え、どんどん元気になる祖母。腸ろうもはずれ、今ではデイサービスに週3回元気に出かけています。
「おばあちゃん、元気になったら恩返しするからね」と人生をもう一度楽しもうとしています。
『看護×介護×福祉×美容の融合を目指し、ルクミにはlook at me(私を見てと自信を持って生きていく)lukey me(「いいね!」と褒めてもらえる自分でいる)という想いを込めています』
内側に問いかける美容
――幼少期の思い出やお祖母様への介護など、それまでの原体験が反映し、起業された『福祉美容ルクミ』。どういった想いが込められてますか?
米谷 介護美容、福祉美容、大好きフットケアをメインにご自宅への訪問、施設への訪問、レンタルスペースでの施術、イベント出店を行っています。介護美容を受ける側も介護をする側も笑顔になるケアの提供。介護負担の軽減、ADL、QOLの向上を目指しています。
「美しく」もさることながら、「心の変化」を提供したい。一歩踏み出せたりとか、外に出るきっかけづくり。話してみようとか。少しでも気持ちが上向くことを心掛けています。
ネイルは見た目の変化として重要な要素ですが、実は二枚爪や巻き爪を綺麗にするなど、外を歩けたり、転倒を未然に防ぐといった生活の変化を促す方に注力しています。
『ご高齢の方の感情の思い出に残り、ご家族との良い時間を過ごせる。笑い合えるような社会づくりの一部に自分が居たらいいなと思います』
筋力よりも大事!?な”爪”の役割
――『足は第二の心臓』とも言われてますが、やはり爪は重要な要素なのでしょうか?
米谷 高齢者の死亡原因のひとつに「転倒」があります。それを予防するのに爪は大事な役割を果たしているんです。
高齢になると自分で爪を切れない方もいらっしゃいます。また、爪が肥厚・巻き爪になっていると尚更です。
「これぐらい大丈夫か」と放置していると、徐々に痛みが伴い、それをカバーするために歩行していると次第に身体も歪んでいく。最終的には歩くこと自体が億劫になり、外出もしなくなる。
おうち時間が長くなると最悪、認知症の引き金になることもあります。
生活に”介入する”ということ
――美容のみならず、介護の側面も担う米谷さん。おひとりでの業務だからこそ、お客様との信頼関係が大事になってくると思います。
米谷 皆さま少なからず緊張や、他人が生活圏内に介入することへの不安を抱いています。決して、介護だからと焦らず、中長期的に信頼関係を築く姿勢が大事です。
会う回数を重ね、介入する場面を少しずつ増やす。次第に打ち解け会話も増えていきます。すると、唾液も出るようになるとお腹もすくんですね。その結果、栄養を取り、筋力が付くことで生きる活力が自ずと芽生えてきます。
気持ちが上向くと、自分自身に目を向ける余裕が生まれてくる。足湯にアロマや入浴剤を入れてみたり。私が使用しているネイルは比較的落ちやすいものを使用しています。除菌シートで拭けばサッと落とせる簡易的な物。
最終的には入浴後に身体を拭いたり、おむつや薬の塗布。介護から美容まで滑らかにご提供できるよう心掛けています。
『私、旦那さんとデートがしたい』
――米谷さんの強みは医療×美容の組み合わせにあるかと思います。施術をされる中でお客様の変化を目の当たりにしたことはありますか?
米谷 これまで2,3名の方が寝たきりから歩けるようになる姿を拝見しました。
最初はお風呂に入ることも恥ずかしいとのことで、足湯からスタート。そのうち、爪のケアを行うと、数日後お風呂の介助をさせて頂きました。
すると、ご自身で髪の毛を溶かすようになり、お化粧やネイルもさせて頂くと、『私、旦那さんとデートがしたい』とポツリと仰って。その方、最初はシルバーカーを教えていたのですが、杖をついて歩けるようになったんです。
自分の仕事の意義を改めて再確認できる機会にもなりました。
孫から祖父母へのボディタッチ
――高齢者に向けたサービスのみならず、お子さんにハンドトリートメントやネイルも行っていると伺いましたが、なぜでしょうか?
米谷 子どもの愛情形成の一環と、ご両親や祖父母とのスキンシップを促したいと思っています。
核家族が増え、おじいちゃんやおばあちゃんと会話する機会が減った現在。大人世代でも『老人ホームか介護施設に入居してもらう』という考えが一般化しているように思え、どんどん精神的にも距離感が離れています。
ハンドマッサージを子ども世代に教えることで、「今度、お母さん、おばあちゃんにしてあげたい!」と、会うキッカケのひとつになってくれれば嬉しいです。
実際、孫や子どもと接点を持ちたいと想いながらも『迷惑かしら』と思っているんですね。そこを小さなお子さんからスキンシップができるツールになれればなという想いです。
さいご
――本日はありがとうございました。これまで、7年間看護のお仕事に携わっています。改めて、今思うことや今後の抱負をお聞かせください!
米谷 『もっとなにかしてあげられたはず…』と、祖父のことを今もなお後悔しています。もしかしたら、様々な方へのケアをすることが、私なりのおじいちゃん孝行をしているのかも知れません。
「”美容”は生きる力を高めてくれるもの」
提供したいのは決して綺麗にすることだけではありません。訪問介護美容として携わる私の価値はきっと心の拠り所や、一歩外に出るなど心の変化を感じて頂くことだと信じています。
来年はご自宅以外でもケアができるようにサロンをオープン予定です。ひとりでも多くの人に笑ってほしい。それが私の願いです。
福祉美容ルクミ公式ホームページ
https://rukumi.crayonsite.net/
予約フォーム
https://yoneya.re-works.net/reserve/



*Carpediem*
今という瞬間は過去の連続よって作られる。
「現在のお仕事をなぜ始めたのか」
「どんな歩みがあったのか」
インタビューと動画撮影で届けています。
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