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前回のインタビューから約1年8か月。
ドイツのサッカークラブでGKコーチのキャリアを積んだ友人に会ってきました。
一体現地でどのような経験と成長をしたのか。
コロナが渦巻く現状で新たに彼が掴んだチャンスとは――?
波乱の幕明け
――久しぶり!前回のインタビューでは「ドイツでの抱負を語って旅立ったね!
陳 本当に色々あったよ(笑)。
前回話したように友人が紹介してくれたクラブで働き始めたけど、言語の問題で5日間でクビに…。
ただ、ドイツはサッカー大国。グーグルマップで調べると自宅から半径5㎞以内に、クラブチームがいくつかあった。
それで直接クラブの門叩いて、英語で現状や自分のことを説明。
その後は「とにかく働かせてください!」って頼み込んで(笑)
それで2部のユースチーム(10代の選手がメインのカテゴリー)で月2000円の給料を頂きながらの下積み時代をスタートできた…!
――見知らぬ土地で職を失うのは相当焦ったでしょ!?
陳 まじで焦った(笑)
そのユースチームでキーパーコーチをやりながら、2019年の4月からは大人(20代~30代)のクラブチームでも働いた。
7月からはそのクラブの専属コーチとして1年契約。昼は語学学校に通い、夜は練習という生活の日々。
今でこそ、B2(大学入試レベル)まで取得して、契約の話もできるようになったけど、来日当初は本当に大変だった(笑)
【PROFILE】
陳彦夫/チンゲンフ(27)1992年9月生まれ
東京国際大学卒業後、2015年台湾の軍隊入隊。その頃より、小学校の生徒達にサッカーを教え始める。黒田和生監督に見染められ、2017年サッカー台湾男子A代表通訳就任。2018年同女子A代表通訳兼GKコーチ。2019年ドイツへ旅たち、VfB Speldorf1919e.V、GKコーチ。2020年6月23日より長崎総合科学大附属高校GKコーチ就任。
言語の壁
――どれだけ教える技術や知識があっても、それを伝える言葉やコミュニケーションが無いと通用しないんだね。
陳 やっぱり人と働くからね。それはコーチのみならず、外国で挑戦する選手にも言えること。
例えばドイツ語検定4級,5級を取得し、日常会話を完璧と捉え勉強を辞めてしまう選手も少なくない。
次に彼らが思うのは、サッカーのレベルさえあれば通用するだろう。という錯覚に陥ってしまう。
その結果、下位のリーグでプレーしてしまうんだ。
ところが、その選手たちが更に上のレベルに行くには、地元のファンに愛されているのかどうかにあったりする。
その人にある色
――特に海外では実力主義。FWなら点を取ればOKみたいなイメージがあるんだけど、実際は違うんだね。
陳 サッカー選手にもそれぞれの色があるんだ。
例えば、今話したような上手ければ良い。という選手は往々にしてお金をもらう。という姿勢がプレーにも如実に現れる。
決して誰かに夢や希望、感動を与えるっていうスタンスでサッカーをやっていない。
そういう選手はプレーもモノクロ色なんだよね。
むしろ『上手さを証明したいのであれば日本でもできるよね?』というのが、コーチや指導者の見解だったりする。
愛されるとは
――この記事を読む人の中には、サッカーのみならず、海外に挑戦する人もいると思う。ズバリどういった選手がコーチ、そして地元の人から愛されるんだろう?
陳 電車で例えるなら、行先が決まって新幹線の如く目的地に向かう人が多かった。
ただ、愛される選手というのは、ぶらり旅のように、途中下車もあり。という人の方がプレーも人間味も色が鮮やかで綺麗。
確固たる目的がありながらも、自分の道のりに愛情を抱ける人。深い感情を持っている人の方がスタッフやファンも応援したくなると言える。
――なるほど。ということは、陳君も現地ではコミュニケーションを大事にしていたということだよね?
陳 息する如く意識していたよ。
台湾のような小国から来たとなると色んな目で見られる「FIFAランクいくつなの?」みたいな笑
でも、そこでアイデンティティをむき出しにするよりかは、長い時間をかけて一歩一歩仲良くなれたらと。
一体感が生まれた日
――徐々にドイツ語が上達し、時間をかけてチームとの関係も良好になったと思うんだけど、よりグッと距離感が縮まったエピソードはある?
陳 チーム加入して半年後に競馬場で行われたスポンサーイベントが大きかったかな。
イベント終わりに一言どうぞ。という感じでいきなりマイクを渡されて(笑)
とりあえず、カタコトのドイツ語で「自分たちのチームはベテランが多く、強いチームになっているので選手を信じて応援してください!」と言って。
そこから一気に距離が縮まったんだよね。
「あんないつもニコニコしていたやつがそんなことを考えていたのか!」と驚かれた。
ドイツに住み始め丁度1年が経過したころ。初めて、話すことに対してプレッシャーやストレスも感じずにスラスラと話せた瞬間だった。
それまでは頭で文法を考えることに追われ、自分の考えを上手くアウトプットできなかったしね。
人との間に生まれる”感情”
――ドイツの滞在期間は1年半年ほどだけど、その経験の濃さや深みは凄まじいね。ドイツで得たものはなんだろう?
陳 誰かと共に感情を共有する大事さを学んだ。
サッカーは喜怒哀楽の時間を共にすることが非常に多く、負ければ悲しみ、勝利は喜びを爆発させ歓喜し合う。
そういう時間こそが、自分の生を感じる瞬間であり、成長ができると改めて認識できた。
こうして、郁弥と笑いながら話せているのもとても大事な瞬間だよね。
新天地は長崎
――おお、ありがとう(照笑) 。ところが、今年に入りコロナが流行。その影響により、予定よりも早い契約打ち切り。そして、日本へ帰国。慌ただしい展開だけど、帰国する際の心境はどうだった?
陳 悔しさ50%、ワクワク50%かな。
実は日本の帰国が決定した際、長崎県科学総合大附属高校からGKコーチのオファーを頂いて、先日契約書にサインしてきた。
全国大会常連校で自分のスキルが通用するのか。それに過去、日本での指導経験も無ければ、学校法人に属して働いたこともない。
そういった不安はあるけどやっぱり新しい挑戦は楽しみだよね。
友人と共に立ち上げたサッカークラブ。埼玉県、東松山市を拠点に運営している。
「人生、いつ死ぬかわからない。そんな中でやろうと思えるのであれば、最初から100%注ぐ協力は無理でも、少ない角度で携われるのなら、やらせてくれと。一日一生だと思う」
夢を追う中で
――本当あちこち飛んでいくね(笑)。青春時代真っただ中にあり、大人目前の生徒達に対してなにを伝えたい?
陳 自分の夢を味方にする術を身に着けてほしい。これは恩師の言葉でもあるんだけどね。
まず、自分自身がその夢を応援する必要がある。けど、それに向かうのは自分一人では不十分。家族、仲間がいてやっと成り立つ。
俺自身も台湾で暮らしていた時は両親、仲間やパートナーが支えてくれたからこそ、めげずに今もやれてる。
自分だけの技術向上、己だけの夢を叶えようとするとすぐに限界を迎えてしまう。
そして、恩師からは『夢を下げるな』とも言われたし。『追いかけてる最中に俺じゃ無理かな?』って思うぐらいなら、今すぐに退けとも。
160人の選手が在籍してるけど、皆がプロサッカー選手になれるとは限らない。
でも、サッカー以外でプロ人間にはなれる可能性がある。
そういう夢との向き合い方を教えたいよね。
花と人に想うこと
――技術を伝えることはもちろん。真に教えたいのは”人としての在り方”。前回のインタビューと同様、人に対する姿勢はブレてないね。また、遠くなってしまうけど、応援しているよ!
陳 サッカー選手もひとりの人間。
子供、プロ選手問わず思う事だけど、花のある選手、人になって欲しい。
花には虫が集まってくる。それは蜜があるということ。言い換えれば、好きとか、必要だから寄ってくる。
サッカーにも似た要素があって、子ども大人関わらず彼がいるチームは感情移入ができる。とファンや人が付いてくるんだよね。
それは技術だけでは到底生まれない感情。だからこそ、人間としての蜜があるのは素敵なんだ。
たしかに、俺よりサッカーが上手くて技術や知識を教える方もいたけど、人を忘れてしまう方もいた。
でも、俺が戦うのはそこではなく、サッカーの在り方、物事の本質を伝えられるコーチでありたい。