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『あなたの人生を記録する』

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私たちが食べる食品。彼のような研究者達の想いが形となっている。 丸山拓馬(26) 大学院生

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清らかな佇まい

  大学1年生の夏休みに参加した、フィリピンのボランティアで知り合った彼。第一印象は”育ちすごい良さそうだなー。”だった。実際に彼は育ちがよく、幼少期には父親の仕事の都合でパリに住んでいた。

 参加中は思慮深く、冷静な発言で気難しいのかな?と思っていたが、意外とくだらない話にも乗ってくれていた。ボランティア後は会う機会は無く、今回インタビューのお願いをしたところ快諾してくれた。大学院で食品や、人間の体に関して研究する彼の生活とはどういうものだろうか。 

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当時のボランティアに参加していた友人ふたり。

 

めまぐるしく変わる環境での成長

 出身は東京都。小学校2年生の時に、父親の転勤でパリに移り住んだ。

 「日本人学校に入ったから、フランス語や英語は全く話せなかったけどね。(笑)日本居るときは、学校と家のまわりしか知らなかったが、当時の衝撃は今でも覚えている。」

 大柄な外国人の姿や、黒人も多く圧倒されたのを今でも鮮明に覚えているようだ。パリで2年ほど暮らし小学校4年生の時に帰国。

 中学受験をし、中高一貫の男子校の私立中学に入学。中学時代を振り返ると、勉強は頑張っていたが、部活にもっと力を注げば良かったと後悔した。ソフトテニス部に所属したが、6年間続く部活は、なぁなぁな環境となってしまった。

 「自ら動いて部活に励めば良かった。そこの反省から、物事に対してちゃんと向き合い自主的にやろうと誓った。」

 

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大学2年生時、オクトーバーフェストにて。

 

動物と人間の関係性

 学業では英語が苦手。一方で、生物の授業が好きだった。そのため、高校では理系を選んだ。「漫画の影響で獣医に興味があった。実際に生物の授業も面白く、高校卒業後の進路は獣医学部を目指した。」国立大学を受験したが、現役では受からず、一年間の浪人生活を過ごす。

 「獣医学部の試験の際に、教授との面接で”獣医は一人前になるまでに多くの動物を殺しますが、大丈夫ですか?”と尋ねられた。その言葉で、自分にとってどうなんだろうな。と考えた。」

 獣医学部ではなく、生物学部に切り替えた。勉強の成果もあり、翌年、東京農工大学、農学部、応用生物学科に入学。 「農学部に入っても、動物を実験体として使うことは変わらないんだけどね。」動物の殺生と人間の進化は切っても切り離せないのだろう。

 

理系大学の授業選択

 1、2年生時は、学問の入門の勉強や基礎研究。3年生の時に、生体や栄養、食品化学。細かい分野になると、遺伝子工学、分子生物学などマクロからミクロまで自分の興味に応じて選択でき、より細かな分野の選定となる。

 彼は機能性食品の分野を選択。そのまま学部を卒業し、大学院に進み修士で2年間、その次の博士号の取得のために今も食品の面から、人間の健康を支える成分やその働きを研究をしている。

 

一体なにを学んでいるのか

 「人間の膝や間節に関しての勉強をしている。関節の病気にどのような成分が効くのか。効くとしたら、人間の体にどのように取り込まれ、機能しているのか。を動物実験も行いながら、研究している。」

 CMなどでよく聞く、グルコサミンの初期研究をしていたのは、彼の研究室。現在はそれに代わる、次世代のプリテオグリカンの研究もしている。研究だけでなく、企業と共同研究で食品製品化に関するアドバイスも行っている。「企業の人が教授に製品化の話を持ってくる。実証実験を取るための、実験にも携わったりしている。」

 理系の大学は助成金も減らされており、運営は厳しい状況が続いている。研究を続けるためには、教授の手腕にもかかっている。 

 

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フィリピンの渡航がもたらした物

 ここで、私とはじめて出会ったフィリピンでのボランティアに話は移る。最初の海外は1年生の夏休み。当時知り合ったボランティアが彼にとって、最初の海外渡航だった。海外に行った理由は、苦手な英語を克服するため。「大学入学後、英語のクラス分けのテストで真ん中ぐらいだった。焦りと共に、この環境にいたら英語に触れる機会が無いな。と思った。」その時に、大学の掲示板でボランティア団体のポスターを見つけ、説明会に参加。

 フィリピン本島での2週間ボランティアを終え、その後、6週間セブ島で語学留学もした。「全然英語は喋れなかった。留学中は1日6時間、講師とマンツーマン授業。特に発音が悪く、試行錯誤を繰り返した結果、最終日にはテストの点数も上がり、成果はあった。」

 もっと多くの海外を訪れたい。と思い、ジャズ研を辞め、アルバイトでお金を貯め、長期休みはバックパッカーを繰り返した。今までで、東ヨーロッパのオーストリア、チェコ、クロアチア、マケドニアなどを中心に28か国の国々を訪れた。「研究室に入ってから、バックパッカーで長期滞在で行くことができない。最近は行きたくて仕方がない。」

 

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修士2年の時に留学した、南アフリカで友達の家でBBQしたとき。

 

 現在は旅行ではなく、研究で海外へ

 一般的な博士課程とは違い、リーティング大学とも呼ばれ、海外での現場研修や、他大学生や、研究機関とチームを組んでプログラムを行っていく。「研究員はひとつのテーマに対してのみ、突き詰めていくが、自分が通っている大学院では、より視野を広くし、多方面と連携を取れる博士の輩出を促している。」
 中国の砂漠地帯で土壌問題の地質調査や政策提言。南アフリカの大学付属の研究所で、いくつかの研究室とコラボをして各国の食品とはまた、違う研究も行った。
 「その土地の物は食べるようにしている。その中でも、日本食が一番府に落ちるし、食べ方や調理法もなども含めて。食事以外にも、お酒も大好き。特に蒸留酒なんかは、その地域性も出るから飲んでいて面白い。」
 

人生のテーマに据えた”健康”

 学部生卒業からトータル6年間を、食や人間に関しての研究に費やしひとつの学問を極めている彼。就職も考えたそうだが、中学時代の想いに触れた。「就職するか、院に進むのかを考えた時、学部での授業は触り程度で終わってしまう。中学時代の部活で学んだ教訓を生かすためにも、もう少し研究対象を広げて、深いところも学びたいなと思った。」

 現在、博士課程1年目。卒業まで残り2年間。進路も見据える時期に差し掛かっている。コンサルティング会社や、シンクタンクなどの企業に目を向けている。「食品会社は修士課程卒業ぐらいの生徒を好む傾向にある。博士課程の生徒は、雇われにくい現状にあるが、ひとつのテーマに対して、論理的に緻密に考えられるのが利点のひとつ。そのためコンサルと食品などを絡めた仕事を探していく。」

 高齢社会と言われる現代。まだまだ、需要のある分野だ。これまでの実験で得た知見や知識を生かし、モコロティブシンドロームなど、お年寄りの寝たきりに直結するような病気へのアプローチも考えている。「健康食品を定期的に取っている人しか、効果が得られない。そこまで、お金を掛けられない人も、健康になるような仕組み作りにも興味がある。」

  

今年に入ってからの海外での仕事

 今年の9月には、学部の卒業生でテレビ関係で働いている人がおり、その人の紹介で、ニューヨークのフレンチシェフの仕事にも同行した。「日本食はなぜ、健康に良いのか。と疑問を持ち、テレビ番組の制作を兼ねて、沖縄の長寿食や、九州の黒酢・長野の寒天、北海道などの地域ごとでの日本食に触れている。その時の北海道での、視察に同行した。」

 そして今月には、ニューヨークの自店で、日本食をどのように生かすのか。日本での見聞の集大成を収録する事になり、今回は通訳としての同行を頼まれた。豊富な専門知識と英語が堪能な人材が欲しいとのことで、彼に声がかかった。「食に関する専門的な英語も多く、運よく声をかけてもらった。フレンチ料理の知識を補うため、勉強している。研究をしながら、様々な海外経験をできるのも、元を辿ればCFFでのボランティアがきっかけだったかな。」

 

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フランス人シェフと。

 

食品研究から見た人間の本質

 私はこれまでのインタビューを通して、”人間はどういう活動をしたら幸せになるのだろうか。””という疑問を持つようになった。食や健康の面から、人間はどうアプローチをしていったら、幸せになるのか尋ねてみた。

 「仕事に追われるの日々で、私生活も忙しくなる。そのため、どこかパッケージされた生活を送りがち。出来合いの物を食べ、日々の決まったルーティンの生活を余儀なくされる。それとは距離を置き、もう少し、動物らしく生きた方が幸せな気がする。運動もさることながら、自然の物を食べるのが一番良い。バランスよく食べるっていうのは動物らしくないが、野生動物は自分に足りないものを本能的に補っている。人間には本能の能力が無いから、バランスを考えて補う必要があるが、あまりに野生とは離れすぎている。そういった原点に立ち返った方が、人類は幸せになるような気がしている。」

  

さいごー 幼少期の原体験

 幼少期から、取り巻く環境の変化を受け入れ、それも楽しんできた彼。小学校のパリでの経験が海外への趣味や、肌の色や国籍に関係ない”人間の健康”というテーマに興味を持つ体験となったとも言える。

 大学入学から6年間、様々なアプローチから人間の健康を研究してきた。自分の研究テーマを持ちながら、世界各国で起きる諸問題や疑問、フレンチ料理。それらの解決策の糸口を探すうちに、自分の研究に対する繋がりもあった。どの諸問題も紐解けば、その先には必ず人という共通のテーマがある。

 人生においても、ひとつの趣味や興味を極めながら、それが派生していき、いつしか趣味だったものが、違う形で仕事になるのかも知れない。

 

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