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「ビジネス、人道支援『なにをするか』よりも大事なのは”人との繋がり”だと思うんです」――アラブカフェ×アルベッラオリーブオイル販売 小林由佳

 

 これまでケニアでのエイズ教育、内戦が激化するシリアの隣国ヨルダンにて、難民支援に携わる仕事をされてきた小林由佳(こばやしゆか)さん。

 

 現在は埼玉県飯能市「本の森ブックセンター」で、アラブカフェの担当と、ヨルダン直輸入の「アルベッラオリーブオイル」販売を営む。

 

 ご主人様であり、ビジネスパートナーのサーメルさんと日本に帰国したのは2016年。心機一転、自国での生活で待っていたものとは?

 

 人道支援からビジネスの世界に進出した現在とこれからを伺いました――。

 

小学校4年生の時に見た世界

――本日はよろしくお願い致します。これまでのご経歴を伺うと、非常に国際色豊かな小林さん!どんな幼少期、学生時代をお過ごしになられたのでしょうか?

 

小林 父は戦場フォトジャーナリストで、母は自宅で日本語教師の仕事をしていました。家庭環境もあってか、物心ついたときから海外に興味を持っていました。

 

 子どもながらに世界の不公平さに気付いたのが、小学校4年生のときに見た海外のドキュメンタリー映像。『この人たちと私との間にどんな違いがあるんだろう?』と、疑問を持ちました。

 

 そして、高校時代にアメリカへ留学した際に仲良くなった友人が、『つい1年前までコソボ紛争に参加して、銃を握っていた』と、話していました。親しい友人に悲痛な過去に衝撃を受けました。

 

 この頃から人道支援に興味を持ち始め、東海大学国際学部に入学。緒方貞子さん(元国連難民高等弁務官)のセミナーに参加したり、児童養護施設や障がい者施設でボランティアをしていました。



写真左:お父様はジャーナリストとして活躍。アジア、中近東諸国の紛争地取材を行ってきた。 写真右:ガザ現地の状況を取材した本も出版)小林「小学校6年生の時に父が『将来は絶対人のために生きろ』と言われました。漠然と『海外で人を助ける仕事?』と芽生えたのかも知れません」(写真引用は各種リンクより)

 

エイズの認識も全く違う

――人道支援に関する専門知識を学びにイギリスの大学院に入学。2012年NPO団体に所属し、ケニアで半年間エイズ教育を担当。実際に現地で働かれてみていかがでしたか?

 

小林 常識ってなんだろう…』の連続でした。日本の常識とは全く違う世界でした。

 

 『この水を飲めばエイズが治る』と謳われる水が販売され、牧師さんが『エイズの子は呪われているから一緒にご飯を食べちゃいけない』と話せば、子どもや親御さん、ましてや学校教育者含め、皆信じるんですね。

 

 それに対して最初から『間違ってる!』と否定することはせず、まずはその考え方を私たちが受け入れることからスタートしました。

 

 『国が変われば、全く違う常識があるんだ』と、痛感しました。

 

【PROFILE】小林由佳(こばやしゆか)さん。神奈川県鎌倉市出身。「本の森ブックセンター」にて、アラブカフェを担当。また、「アルベッラオリーブオイル」販売を行う。サーメル・アブアルハイジャさん。ヨルダン出身。ヨルダンでは、学校教員(音楽教諭)として従事。アラブカフェで調理を担当。(以下、写真は適宜ホームページより引用)

 

難民の子ども達と共に

――2013年3月には、ヨルダンで難民児童に対する情操教育の仕事をされました。内戦に見舞われる隣国シリアから逃れた子ども達。難しい現場だったと思います。

 

小林 現地教員と協力しながら、現場を駆け回る日々。特に音楽の授業での出来事は今でも鮮明に覚えています。

 

 カリキュラム導入に際して『シリアでは大多数が亡くなっている状況で、歌っている場合じゃない』と、親御さんから手紙が届くなど、反発も大きかったです。

 

 時間をかけて丁寧に説明し、ご理解を頂き授業がスタート。それでも、故郷や亡くなった友達を思い出して、泣き出したり、教室を抜け出す子どももいました。

 

 そんな子たちに声をかけても、アラビア語が理解できず成す術が無い私。やりきれない気持ちがありました。

 

 容姿や性別といった理由から馴染めない状況が1年続き、その後はヨルダン日本大使館で働きました。

 

 

理想と現実

――ヨルダンの地で出会ったのが当時、音楽教諭を勤めていたサーメルさん。ご結婚を経て、2016年日本へ帰国。心機一転、新しいスタートを切りました!

 

小林 主人には「日本で色々な仕事があるよ!」と、ポジティブな側面を伝え、私自身も母国での生活に希望を持っていました。

 

 しかし、主人はいざ就職し働き始めると、職場でいじめられていたそうで…。

 

 私、気づいてあげれなかったんですよね…。当時は私も職場と家の行き来に、保育園探しの日々。自分自身のことで精一杯でした。

 

 自分が想い描いていた家族像を送れないことに、悲しさと葛藤を抱いていました。

 

(1Fでは小林さんがオーダーや接客を担当)

 

「オリーブオイルを持ってくる!」

――日本での生活に新たな可能性を感じていた分、辛かったと思います…。どのようにしてお二人で事業を展開していくに至ったのでしょうか?

 

小林 日本に帰国し程なくして、スーパーで購入したオリーブオイルを開けて主人が『えっ?これを日本人はオリーブオイルだと思っているの!?と、言ったんです。

 

 そして、『自分でヨルダンから持ってきて、日本人に本物のオリーブオイルを知ってもらいたい!』とも。

 

 持ってくると言っても、『個人輸入?そもそも誰から?』と、わからないことずくしでした(笑)

 

 主人に聞くとヨルダンではスーパーで購入せず、個人でオリーブ農家や搾油場から直接購入していることがわかりました。

 

カルダモン入りのコーヒーも楽しむことができます!

 

オリーブオイルビジネスの裏側

――日本ではあまりない、流通経路があるんですね…!

 

小林 ヨルダンでは昔から万能薬として使われるなど、生活と深く関わるオリーブオイル。その市場規模は拡大する反面、偽物が販売されるといった問題も抱えています。

 

 日本のみならず世界中で「オリーブオイル」と明記しながら、実態は植物油などでかさ増しして販売・輸出するケースが多発。

 

 その背景には、オリーブの実から採取できる量が1/10という希少性が起因しています。

 

2Fではサーメルさんが調理を担当。ひよこ豆を使ったヨルダン定番料理「ホンモス」(写真右上)や「ファラフェル」(写真右下)を味わえます!

 

徹底したこだわり

――仮に1L製造するにも、とても時間を要しますね…。現在取り扱っている「アルベッラオリーブオイル」。どういったこだわりがありますか?

 

小林 主人と決めたのは、日本で味わえないオリーブオイル且つ、高水準の物を取り扱う事でした。

 

 紀元前から存在する「バラディ」と呼ばれる種を扱い、国産オリーブ協会が定めている酸度0.8%以下の基準を守ること。

 

 双方を満たしたオリーブオイルを現地農家や搾油場からサンプルを数十以上取り寄せ、選別し今の「アルベッラオリーブオイル」にたどり着きました。

 

 毎年気候などによって味や風味が異なります。収穫時期になると主人が現地農家に行き、必ず試飲してから製品化しています。この工程は販売から現在に至るまで欠かさず行ってきました。

 

「アルベッラオリーブオイル」

 

選択と決断

――こだわりぬいたオリーブオイルですね!2020年1月から「アルベッラオリーブオイル」の販売をスタート。現在に至るまでどういう歩みだったのでしょうか?

 

小林 当時、主人は語学学校でアラビア語講師として働いていました。程なくしてコロナ禍となり、自宅でのリモート授業へと切り替わりました。

 

 おうち時間が増える中で趣味となったのが料理。徐々に腕も上がり、周囲の人にアラブ料理を振舞うとご好評頂きました。コロナも終息気味となり、飲食店を始めようと物件を探してみるも難航。

 

 そして、子どもの小学校入学のタイミングも重なりました。言語や宗教、文化的な側面からヨルダンでの教育を与えたいと考え、2024年4月に主人がヨルダンへ現地の状況を見に行きました。

 

 しかし、生活状況や教育環境を鑑みて帰国は断念。

 

 仕事と学校という悩みを抱えている中で、5月に主人が開催している『アラブ会』に近藤さんがいらっしゃいました。

 

 私たちの想いやカフェ運営のことを話をしていると、「飯能市内のビルで出店してみませんか?」とお声がけを頂きました。

 

埼玉県飯能市『本の森はんのうブックセンター』にてカフェをオープン。飯能市駅北口から徒歩3分。同センターは「学びの場」をコンセプトに音楽、アート、学術などの教室を開講。

 

本の森はんのうブックセンター

――近藤さんとの出会いから約1か月後の6月19日にアラブカフェをスタートされました!非常にスピーディーな展開です!スタートされてみていかがですか?

 

小林 主人も私も共にイキイキしながら働けています。

 

 なにより、カフェ以外の楽しさを感じられるのも魅力のひとつですよね。

 

 ここはイベントスペースとして活用でき、カリンバ教室ボタニーペインティングが体験できます。

 

 多様なジャンルに触れ、皆さんの興味が広がっていく。そこで生まれる新たな人間関係の様子を垣間見えるのも楽しいです。

 

ボタニーペインティング作家「ミチカケ・ミチル堂」さんもワークショップを開催。

 

人との交流が生む経済サイクル

――人道支援という非営利の業界で従事され、現在はビジネスという利益確保も重要な要素と言えます。相反する世界と思いますが、その点、思うことはございますか?

 

小林 そうですね。人道支援だから、ビジネスだからといった『なにをするか』よりも、すべてにおいて大事なのは人との繋がりだと思うんですよね。

 

 そして、人道支援とビジネスは密接に関わっています。

 

 支援は寄付を頂くことで成り立つ形。言い換えれば、寄付が無ければやりたいことができない現実があります。

 

 ならば、諸外国からの寄付を待つだけではなく、”自分たちでビジネスを創出していく”。そこで得た利益で更なるアクションに繋げる。

 

 人との繋がりを基盤として、経済を回す。この意義を肌で感じています。

 

 

さいご

――本日はありがとうございました!今後もカフェを担当されていくかと思いますが、最後に小林さんご自身の展望をお聞かせいただきたいです!

 

小林 私は『アルベッラオリーブオイル』を通じて、ヨルダンのオリーブオイル事情や、ヨルダンという国そのものに興味を持ってほしいです。

 

 なので、より伝えることにも注力したいです。

 

 これはまだ夢の状態ですが、現地ヨルダンでオリーブ農園の購入を思い描いています。町の人たちと共にビジネスを生み出し、将来を一緒に迎えに行く。

 

 その一端を私たち家族が担えたら嬉しいですよね。

 

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carpediem運営者:高橋郁弥(Takahashi Fumiya)

2018年よりインタビュー記事をスタート。

なぜその仕事を始めたのか。どんな想いを込めているのか。等を

インタビューさせて頂いています。