これまで保育園で保育士として働いていた越後尚美(えちごなおみ)さん。専門学校卒業後、保育業界一筋で従事されていましたが、2024年3月に退職。同年6月からはベビーシッターとしてのキャリアがスタートする。
そして、「テーブルスタイル茶道講師」の顔も持ち合わせている。
「保育園で働いていた時は、親御さんからの子育ての悩みに対してアドバイスする際は、どうしても「園として」の回答が求められていました。年々、『もっとご家族に寄り添いたい』というジレンマが芽生え始め、そのモヤモヤを抱え続けるよりも、1対1で向き合える仕事がしたいと思い退職したんです」
日本文化として古い歴史を持つ茶道。そして、社会の営みに外せない子育て。
このふたつがどう絡み、これからの仕事が展開されていくのか。現在とこれからの気持ちをお聞きしました――。
『私、将来保育士さんになりたい!』
――本日はよろしくお願いいたします!2024年6月よりベビーシッターのお仕事を始められる越後さん。その前段としてなぜ、保育士を目指されたのでしょうか?
越後 どうぞよろしくお願い致します。保育士を目指したきっかけ…(笑)。笑い話なんですが、私自身も保育園に通っていました。
その時にお散歩の時間に沼?のようなところにハマっちゃって(笑)。その時に助けてくれた保育士さんがかっこよくて『私、将来保育士さんになりたい!』と思ったのがきっかけだったんです(笑)
【PROFILE】越後尚美(えちごなおみ)。埼玉県在住。専門学校卒業後、保育士として23年間勤務。2023年7月テーブルスタイル茶道講師の資格取得。これまで幼稚園のお母さんとお子さんを交えたイベント開催。芝パークホテルや季節行事としてテーブルスタイル茶道を催す。2024年6月から「キッズライン」を利用してベビーシッターとして働き始める。
23年間の保育士生活
――なんともほっこりするエピソード!(笑)。専門学校に通い、そこから23年間保育園の現場にいらっしゃいました。実際に働かれてみていかがでしたか?
越後 たくさんの子どもたちや、お母さん方と関わらせて頂き、成長を見守れたことは非常に尊い経験でした。
社会性を育むという子どもにとって大事な段階の時間を携わらせて頂いたという自負も同時に持っています。
その一方で、次第に『お母さんと1:1で向き合いたい!』という想いが強くなりました。
ジレンマ
――なぜ、お一人お一人と向き合いたいと思ったのでしょうか?
越後 お母さんから子育てに関するお悩みを伺ったり、保育ノートにもその日の出来事や、子育て中のモヤモヤが届くことがありました。
保育士といえど、私もひとりの人間。『こういうアドバイスがしたい!』、『もっとサポートしたい…!』と思っても、あくまで”園の保育士”としての対応が求められるんですね。
『そのお母さんの生活スタイルもあるしな…』など、どうにか置かれた立場を飲み込もうとする自分と、『もっと親御さんに踏み込みたい』という私。
理想と現実の間でモヤモヤを抱え続けてましたが、後者の想いを大事にして退職の道を選択しました。
より、深い関係性を
――ベビーシッターとして働くという選択は、越後さんが抱えていた1:1のより深いやりとりが実現されますね!
越後 より深いご家庭のサポートさせて頂けることに喜びも感じながらも、これまでとは違った責任も生まれるので緊張感もあります。
6月から仕事がスタート。「キッズライン」を活用し業務委託として、お客様の希望日時といったご条件がマッチングしたら私がご自宅に伺い、お子様を預からせて頂く内容となっています!
いずれは独立して法人化に向けた動きも考えていますが、まずは委託として働いてみようと考えました。
テーブルスタイル茶道との出会い
――保育のお仕事もさることながら、「テーブルスタイル茶道講師」としてイベントも開催されていらっしゃいます。テーブルスタイル茶道を始められたきっかけはなんでしょうか?
越後 元々着物が好きだったんですね。それまでは着て楽しむお着物でしたが、20代の頃に当時働いていた園長から着付けを教えて頂いたんです。
『せっかく自分で着られるようになったので、茶道を始めてみよう!』と。
最初は畳の茶道にも通ったのですが作法を覚えられず…(笑)。そのあとに出会ったのがテーブルスタイル茶道。畳よりも気軽にできるのが私にとっては合っていたんだと思います。
師匠のとのレッスンが楽しくて、月に一度通っておりました。その中で『講師になってみたら?』と、師匠が背中を押してくださり、椿の会、テーブルスタイル茶道認定講師を取得しました。
「茶碗と茶筅とお抹茶があれば、どこでもできる。気軽に楽しめることで日本文化に触れられる魅力があります」
茶道の魅力<整う>
――日本文化のひとつとして歴史ある茶道。畳の茶道よりも敷居が低そうな印象を受けます!越後さんにとって、茶道の魅力とはなんでしょうか?
越後 そうだなぁ…!”心が整えられる”、”言葉にしない感謝を届けられる”ことなんじゃないかなぁ…⁉
お点前(おてまえ)の中でお道具を清めていくんですね。棗(なつめ)という抹茶を入れておく容器や、お茶碗を茶巾(ちゃきん)で清める。道具のみならず茶器を”置くところ”も清めます。
ひとつひとつを自分の手で綺麗にしていくので、自分の中にある悩みや心のモヤモヤも同時にクリアになっていくイメージがあります。
そして、すべての環境が清まった状態で、一呼吸おいてお抹茶をゆっくりと味わう。工程を重ねていくことで、自分が整っていく感覚があります。
茶道の魅力<感謝>
――日々の喧騒の中で、自分との対話が数分間でできるのは魅力的ですね!
越後 日々の生活の中で、楽しいことばかりではありません。嫌なこと、気になることがどうしてもあります。そうした時にお茶を無心で点てることで、気持ちが落ち着く。”今ここ”が器に注ぎ込まれます。
そうして完成された一杯には感謝も含まれている。口に含む際には、周りの人や両親、家族。身の回りの人に感謝も寄せる。
茶道を始めて数年が過ぎ、そうした考えに至った時『子育て中のママが茶道をしたら、気軽に心が整うし、ほっとできる時間になるなぁ…』と思ったんです。
その瞬間、『茶道と私が提供したい保育は一緒かも⁉』って。
2024.6.21「和×洋コラボレーション」イベントにて
茶道と保育
――ん!?茶道と保育が一緒!?どういうことでしょうか?
越後 いきなり言われても難しいですよね(笑)
私がしたいことは、お母さんとお子様といったご家庭に寄り添うこと。
ベビーシッターはお子様を預からせて頂き、お母さんの悩みや不安を一緒にサポートさせて頂く。難しい言葉ですが、保育は動的な関わり方。
茶道はいっぱいのお茶を点てる上での、”癒し”や”感謝”。静的な心のやりとりができるお母さんとの関わり方。
どちらも概念や動作は違いますが、ご家庭に寄り添うことができる。という意味では一緒だと考えているんです。
利他の精神、一期一会
――徐々に伝わってきました…!共に越後さんのゴールに沿っていますよね。もう少し、保育と茶道が似ているという点をお聞かせいただきたいです。
越後 茶道には一期一会という言葉があります。今、この時間。そして『目の前の人にはもう二度と会えないかもしれない』と、思いながらお茶をお出しします。
その際、すべてお客様を意識した所作になります。お茶をお出しする際は、飲み口はお客様に正面に向くようなど、心配りや気遣いが込められています。
ベビーシッターの仕事もマッチングした方のみ。一期一会なんですよね。
こうした茶道体験が私とお母さんの間だけでなく、ご家族同士で行えたら違う感謝の形があると思っています。
五感
――一服を味わう中での気づきと思いやり。ただの習い事に留まらない茶道の良さがありますね。
越後 私も習い事以上の存在になるんじゃないかなって思っているんです。大人も子供も、五感をフルに使ってほしいんですね。それこそ、和菓子ひとつとっても五感が研ぎ澄まされます。
菓銘(お菓子の名前)が「夜桜」だとしたら、「夜桜」と聞いて(聴覚)情景をイメージします。そして、お菓子を切る。その切り口を見て(視覚)美しさを楽しむ。次第にお菓子の香りが鼻を抜ける(嗅覚)。最後にお菓子を口に運んで味わう(味覚)。
近年、感覚が鈍っている子も多いんですね。砂遊びでは砂の感触を感じたり、裸足で遊ぶことで土の感触を確かめて感覚を養う効果がありますが公園も閉鎖されてしまったり。
お母さんも目まぐるしい日々の中で自分の感覚と離れてしまう場面も多いんです。
「核家族」、「ワンオペ」いう言葉も存在し、夫婦共働きも一般化。よりお母さんが孤立してしまっている。ただ、私という人間を提示してマッチングした人と。深く入っていけるのかなって思っています。
さいご
――これまでは日本文化のひとつの茶道でしたが、インタビューの中で自分の価値観が変化した気がします!今後はベビーシッターとテーブルスタイル茶道の二軸でお仕事をされていく思います!さいごに、今後の展望をお聞かせいただけますか?
越後 ベビーシッターは自身の強みと掛け合わせたことも提供することができる仕組みとなっています。
お客様とのご都合が合えば、ベビーシッター後にお茶をご提供しながら、お母さんとのお悩みや、日々の出来事を共有できる時間を設けさせて頂ければと思っています。
お母さんは子どもが生まれると、その責任が重くのしかかり、ひとりの人間のはずが”お母さん”という役を自ら背負ってしまいがちです。
私とだけではなく、ご家族の中で茶道を通してひとりの人間として日々の感謝を伝え合えたら嬉しいことです。
日本文化の茶道を通して、相互理解が深まるサービスを展開できたらと思います。
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carpediem運営者:高橋郁弥(Takahashi Fumiya)
2018年よりインタビュー記事をスタート。
個人事業主の方を中心に、なぜその仕事を始めたのか。
どんな想いを込めているのかをインタビューさせて頂いています。