人の体と植物の共生をめざして
生徒を迎えてのレッスンや、お店の装飾も施す、フラワーデザイナー西山理恵子(にしやまりえこ)さん。2009年にAteler Carnerian(アトリエ・カーネリアン)を設立し10年が経過。2018年末に沖縄県に移住し、自然溢れる土地でお仕事をなさっている。
「お花や植物に触れることで、『自分も生き物であることを思い出してね』と、レッスンでお伝えしています。もちろん、空間にお花を飾らせて頂くこともありますが、その時も、お花からなにかを感じ取ってほしいという想いがあります。心と体をコーディネートするのが、今のお仕事です」
3人のお子さんを育て上げ、現在は2人のお孫さんも誕生。そして、次第に芽生え始めた自然環境への想い――。西山さんが考える、人の体と植物の共生とは。
お花のある生活
――お母様はご自宅で華道を教えており、お庭には常に季節の花が咲いている。小さな頃からお花に囲まれている環境で育ったそうですね!
西山 『月に1,2回はお花を生けなさい』。と、から言われて育ちました。お花の生けこみを見たり、展覧会に付いて行ったり。自然とお花の名前や、植物の生育の成り立ちも自分の中にスッと入っていて。
行くべくしてこの世界に入ったかなって、今となっては思います。その当時から、『命ある花を手折る』という意識があったかも知れません。
中国に魅せられて
――高校卒業後は中国に留学なされました。これまで聞いたことのないご経歴です!なぜ、中国に行かれたのでしょうか?
西山 父の趣味は骨董で、とにかく歴史好き。父との話はいつも”歴女”みたいな(笑)。シルクロード、ラストエンペラー。そういうのに物凄くロマンを感じちゃって。次第に中国を生で見たいと思ったんですよね。風土、暮らし、文化。それらに触れたいと。
語学留学生活がスタートし、旦那と19歳の時に結婚し、子供が3人産まれました。いわゆる海外駐在員妻の専業主婦。子育てをしながら、地域のボランティア活動に従事して、手芸品のバザーやイベント企画をしていました。
ギフトからギフトへ
――子育てがひと段落した頃から、ご友人からスカウトされ、ホームサロンでのアクセサリーと雑貨の販売、ハンドメイド作品のプロモートの仕事をスタートされました。
西山 その後、パートナーである友人の帰国することに。「顧客と商材を引き継いでひとりで続けますか?」と尋ねられて、イエスとお答えしました。
ホームサロンのスタイルから自分の場所として起業し、雑貨屋Carnerianをスタートしました。人様からチャンスを頂けるってすごい恵まれたことですよね。
これはギフトなんですね。なので、『与えてもらったのは誰かに分けていく。それが健全だな』と、思ったのを今も鮮明に覚えています。
広い店内の空き部屋を文化教室として、貸し出し交流のある作家のワークショップを展開。さらには、店内に自作の花を飾っていたことをきっかけに、多方面から仕事を頂けるようになりました。
”知識”や”固定観念”ではないものを
――事業が軌道に乗り出した頃、「フラワーアレンジのレッスンをしてほしい」と、オファーが届きました。お花を人に教えることに抵抗はありましたか?
西山 抵抗はありました。
それまでは自分の知識や、スキルの範囲内で良かった。ただ、生徒を持ち教える立場になると、私自身の確信力も重要になります。
その点私はそれまで自由にやってきたので、『技術を習いたい人はほかのところに行ってね』と、最初にお伝えしました。レッスンをするのなら、”知識”や”固定化した概念”を教えたいわけではなかったので。『私の伝えたいことを伝えますね』って。
レッスンで教え始めたのをきっかけに、本格的にヨーロピアンスタイルを取り入れたオリジナルのフラワーデザインを創り始めました。
たまに上海に戻るんですが、その時も『1日レッスンします!』と、お伝えすると10数名程集まってくれるんですよ。2009年にAtelier Canerianを立ち上げ。10年が経過しましたが、なにかが私を求めてくれているんだと感じられ、とても嬉しいです。
旬な命を摘む
――特にレッスンでこだわっていることはなにかありますでしょうか?
西山 その季節のお花を扱っています。
旬な食べ物が美味しいのは繁殖期だからこそ。それを取り入れることで命が体内に宿る。それは、土に生きる植物も同じ。
命の息吹を室内でも、お花を通して感じてほしいです。
茶室でその季節のお花を使うのもそうなんですよね。その季節や今を生きていることを感じながらお茶を頂く。それを身の回りに置くことで目に見えない内側が活性化する。『HPがあがる』とも言えるかな?(笑)
お花を持った手の”行方”
――お花を生ける。という行為、西山さんはどう捉えていますか?
西山 その瞬間の心の在りようが表れているんじゃないかな?
心が整っているときはスムーズに作れることもあります。その一方で、迷いや悩みがあるときは、手が進まないんです。そんなときは、『残ってお話していきますか?』と、生徒さんにお訊ねします。
なぜかと言うと、その時間がなんのためにあるかということを、心を落ち着かせて噛みしめてほしいからなんです。そうして出来上がった作品は、自身を華やがせ楽しませるワンアイテムへと昇華していきます。
そこからその方の家族や周りの人への癒しの連鎖が始まると信じています。
お花にお金をかける。生活必需品でないからこそ、一見すると無駄と思えるかも知れない。でも、そこに想いや尊さが凝縮されているじゃない?だからこそ、生けている時の自分と向き合って欲しい。
私がお花を通して伝えたいのは、人の内側にある”心意気”や”豊かさ”なんです。
外側にも想いを寄せて
――お花を通して、心意気や豊かさを伝える。その点をもう少し詳しくお聞かせください!
西山 根底にあるのは、テーマである人の体と自然の共生にあります。
自分も大きな自然環境の一部に属していることを感じ取ってほしい。そういった想いです。
外にある木も生きているんです。例えば、『最近雨が少ないな』、『ほこりっぽいな』とか。決して口には出さないけど、植物も想っていることがある。そうやって、少しでも外にある物へ、意識や気持ちを重ね合わせることで、『自分も地球の重要な重鎮を担っている』と、思ってもらえる人が増えると嬉しいです。
命の連鎖を伝える
――人と自然の共生。現在は地球環境も悪化しています。改めて、お花を通して後世にそして今を生きる人に伝えたいメッセージはありますでしょうか?
西山 こういう考えに至ったのは、孫の誕生が大きなきっかけだったかな。幸い沖縄は比較的自然豊かと言えますけど、大きくなる子たちにこの環境が無くなってしまうのがすごく嫌なんです。
だからこそ、自分の内側と外側への思いやりを持ってくれる人に育ってほしいなって。でも、自分の心が余裕が無かったり、荒んでいたりすると目を向けられない。
いきなり、私が部屋に引きこもっている人のドアを叩き、命や環境の尊さを話しても伝わらないわけです。でも、人の行為の連鎖でしか、物事は良い方向に繋がらない。
私にできることは、お花を通して『自分も命ある人間』であることを少しでも感じていただく。――これが私のお花かな。
***Atelier Carnerian***