舞台の世界を夢見た少女は、23歳でJR社員となり新幹線の乗務員の仕事に就いた。後にホテル、レストラン、着物屋と様々な職種を経験。そして、現在はマクラメアクセサリー作家の澁谷明日香(しぶやあすか)さん。
一見して、職歴における共通点は見当たらないが、すべては今に繋がっている。
自分の興味や好きを仕事にする。それは打算的な考えではなく、自分の心と向き合い、その場にいる自分をイメージできるかどうか。それが第一歩かもしれない――。
初海外は小学校6年生
――澁谷さんのインスタに載っているプロフィールに惹かれてご連絡させて頂きました。なんといっても多彩な経歴に驚きました(笑)。まずは幼少期の頃からお聞かせください!
澁谷 ありがとうございます(笑)。幼少期の頃ですかぁ…!
小学校1年生から中学校3年生まで英会話を習っていました。小学校6年生のときに英会話の先生から『海外に行ってみたら?』と言われて、夏休みに10日間オーストラリアに行ってきたんです。
入国審査での会話に始まり、着くや否やファーストフード店で『さっ!自分でオーダーしてみましょう!』と、無茶ぶりされたり(笑)。現地の子たちが通う小学校で一緒に授業を受けたりもしました。
【PROFILE】澁谷明日香(しぶやあすか)。埼玉県飯能市出身。「yellowtail」代表。マクラメアクセサリーの制作販売を手掛け、全国各地のイベントや百貨店に出店。飯能、浅草教室の他、イベント限定ワークショップも開催。飯能市の西川材を使ったマクラメ作品がふるさと納税返礼品に選ばれる。
舞台への憧れ
――今の時代だと大人がサポートする場面も、時代性も相まってか『自分でやってごらん?』という感じですね!
澁谷 初めての海外だったからこそ、カルチャーやその場での挑戦もすんなり受け入れられたんだと思います。今、その状況に飛び込んだら慌てるかもしませんね(笑)
英語の他には、保育園のときに新体操を習っていました。踊る、歌うことが好きだったので、『いつか舞台やミュージカルに出演したい』という夢を抱き、高校は演劇科に進学し、短大も声楽や舞台に関わることを学んでいました!
飯能ものづくりフェア出店時の様子
声に感情を乗せる
――短大卒業後は芸能事務所の養成所に入ったという澁谷さん。少しづつ夢に近づいたと思います!
澁谷 ミュージカルを学びながら、同養成所は名だたる声優さんを輩出したところでもありました。
洋画の音声吹き替えの収録現場を見学させて頂いたのですが、声だけで感情を表現し、命を吹き込む声優さんの姿に感情を揺さぶられました!
片耳にイヤホンを着けて、そこから流れる英語のセリフを聞きながら、目では映画のシーンを追っている。その瞬間、マイクに向かってピンポイントで台詞を入れる。
感覚を研ぎ澄ませて命を吹き込む。それは舞台にも通じる、”声で魅せる可能性”を感じて、より『舞台に立ちたい!』という想いが湧きたちました。
写真左:澁谷さんがマクラメを編んでいる姿。右:マクラメ編みにハマり、ひたすら編んで練習していた頃
怪我
――一年間の在籍を経て、その後はフリーで劇団四季などミュージカルのオーディションを受けられました。夢を追いかけながらも、靭帯損傷する大きな怪我に見舞われたそうですね?
澁谷 中々次のステップに昇れない。けれど、まわりは先を行く。そんな焦燥感を抱く中で、稽古中に足の靭帯損傷。
気持ちも塞ぎ込み悲惨な状況。ただ、結果的に演劇の世界から気持ちよく離れることができた。ひとつの大きな分岐点となりました。
絶望の最中、当時通っていたレッスンの先生から『こうして休むことも中々無いし、せっかくなら本や映画を鑑賞したら?』と言っていただきました。また、その先生の計らいで、プロの演者の方たちのレッスン現場を見学させて頂いたり。
毎日何本も作品を鑑賞して、一歩離れた状態で「舞台そのもの」を感じました。
仕事と趣味。現実と夢。
――どういう気づきがありましたか?
澁谷 身体が資本の舞台の仕事。仮にプロとして仕事をして行くには、かなりの責任が伴うことを実感しました。
また、脇目も振らずに夢に邁進してきました。怪我をしたことで自分自身さえも俯瞰する時間を持て、「舞台ってこんなに楽しいんだ!」と、心の底から思え、演者ではなく好きのままでいる選択も良いんじゃないかなって。
熟慮の上での選択。今も演劇の世界に未練はないです。
それと同時に徐々に現実的というか、バイト代がレッスン代で消えるという生活。社会保険に入りたいし、就職しようと。(笑)
ただ、『就職するなら、やりたい仕事』その考えはありました。
マクラメを編んでいる過程
23歳、JR入社
――その後、お勤めになったのがJR。旅好き&鉄道好きが大きな理由だったそうですね。その当時23歳。人生が濃いですね(笑)。どういう仕事内容でしたか?
澁谷 ありがとうございます(笑)
仕事内容は東海道新幹線のパーサーとして車内販売・グリーン車の車掌業務を担当していました。その後、東北新幹線に新設されたグランクラス専任アテンダントとして乗務していました。
新幹線の乗務は時間・規則など規律正しい環境での仕事でした。新幹線での仕事の醍醐味はその場によって求められる言葉遣いや立ち振る舞いを変えながら接遇すること。
各種車両・時間帯・季節にとってお客様は違います。例えば車内販売をしている時、グリーン車、普通車、自由席で売れるものが違うんです。また、グランクラスは「特別なおもてなし」お客様一人一人に寄り添うサービスが求められました。
新幹線という舞台で、パーサー・アテンダント役を演じている感覚でした。
グランクラス専任アテンダント。東京駅ホームでのグリーティング風景
コロナのおうち時間で
――その後はホテル、レストラン、着物屋でも働かれました!2020年のコロナ禍となったときにマクラメを始められました。どのようにしてマクラメと出会ったのでしょうか?
澁谷 20代の頃から、デザインフェスタなどのイベントに出向くことが好きでした。クリエイターさんの1点物を購入しては、『いつか私も制作販売できたらいいなぁ…!』と、思うこともありました。
おうち時間を過ごす中で、ふと以前購入したブレスレットに目がいきました。『この編み込み方なんだろう…?』と思い、その技法を調べる中で、”マクラメ”を知りました。
まずは自分で趣味程度で編み始めて、次第に色合わせにも興味を持ち、都内の教室に通い始めました。『いつかイベントに出られたらいいなぁ』と、思ってはいましたが、今みたいな展開は全く予期していませんでした。
初めて出店したイベント「2021年秋・ヨコハマハンドメイドマルシェ」。「とにかく楽しかったです!改めて、接客するのが好きなんだなって感じました」
「yellowtail」開業
――『できたらいいなぁ』からのこれまでの歩みがスピーディーな澁谷さん(笑)。2022年に開業。現在は、各地のイベント出店、教室開講、イベントの実行委員まで!個人事業主としてのこれまでの歩みはいかがでしょうか?
澁谷 会社の全部署をマルッと一人で担うのは大変だけど、すごく面白いですよ!営業一つとっても、自由であり全て自己責任。
開業当初も色んなイベントに足を運んでは、作家さんにご挨拶させて頂いたり。それがきっかけで、街中でお声をかけてくださったり。
自分で営業して開拓し、次に繋がっていくのが楽しい。
今も私が好きな作品も作るんですけど、私の好みとお客様とギャップがありすぎたら購入頂けない。いかにお客様の好奇心をくすぐる作品を作れるのかも大事になってきます。
だからといって、お金儲けのためのモノ作りや、利益・数字だけに捉われることはしたくない。一個人の”ワタシ”と経営者の”私”。この両立も面白いです。
高橋「マクラメに惹かれた理由は?」澁谷「私の特色かも知れないんですけど、カラフルな色を使うので色遊びが面白かった。同じ編み方でも表情がこれだけ変わるんだと。ビビットカラーやネオンカラーでよく編みます」
基礎を大事に
――澁谷さんが行うマクラメ教室。こちらは子どもから大人まで参加可能とのことです!作り方を伝える中で、なにか大事にしていることは?
澁谷 編み方の基本や基礎をしっかりとお伝えするよう心掛けています。
なにをするにも、基礎が大事だと高校のときに初めて、クラシックバレエを習ったときに実感しました。
『ここはこの筋肉を使う』、『こういう動作で次につなげる』と具体的に。そして、丁寧に。そうして教えて頂いたからこそ、クラシックバレエを好きになれました。
対面で教える・教わることでより深く理解できる利点と同じ「好き」を共有できる。仲間ができる喜びや出来上がった時の達成感を感じてもらえたら嬉しいです。
ワークショップの様子(浅草教室にて)「いつも明るく和やかな教室。レッスン中も笑い声が絶えない明るい生徒さんたち、マクラメ編みを楽しんでいただいています」
3歳の記憶
――学業から、これまでのお仕事。以前も、あらゆる出来事を今に繋げている印象があります。
澁谷 着物屋での経験は作品の色選びやデザイン全般を学べました。
華やかな着物に帯や帯締め、髪飾りなどを組み合わせる。一生に一度の成人式を控える子たちに『これを着たい!』と思わせるコーディネートをご提案してきました。
JRでの経験はお客様の興味を置く視線を学べました。購入しそうな人はパッと目が合ったり、既にお飲み物に目が最初から行っていたり(笑)。後姿でも肩がスクッと動くので、注意を払っておいたり。
そうそう、一番古い記憶が3歳の時なんですけど、祖母が経営する食堂で簡単なお手伝いしていました。その時、『この人これ食べるんだぁ』とか、よく見ていましたねぇ。
小さいときの見た大人の姿から、一度見たお客様の容姿から、『どんなお声がけが良いのか』、『好みはなんだろう?』とイメージする。
作品制作、接客での気配りといったことは今に生きています。
ワークショップの様子(飯能教室にて)左:小学生の女の子。右:お母さん。「小学生や親子でマクラメ編み体験も実施しています。基礎をしっかり!というより、楽しめるものとしてのマクラメ。後々に「やってよかったなぁ…!」と思って、また始めてくれたら嬉しいですよね。
取捨選択の背景
――好き、興味を取捨選択されてきた人生。一見して統一性がないのかと思いきや今に生きています。選ぶ際に大事にしていることはございますか?
澁谷 イメージトレーニングはすごいしてるかなぁ?入社するにしても、”それ”を自分がやっているイメージができるのかどうか。
学校選択の時も、『私はここで3年間学んでステージに立ってる…!』みたいなイメージ。そういえば入社試験で『御社で働いてるイメージが私できてます!』って、面接官に話したこともありました(笑)
西川材(ヒノキ)のマクラメペンダント。地元である飯能市の特産品西川材(ヒノキ)の端材から再び美しく蘇らせたアップサイクルアクセサリー。『自然を大切に!』、『自然を感じる作品を作りたい!』という思いから生まれたアクセサリー。
さいご
――将来像を描くのは実現をグッと手繰り寄せる。いつでも実践できる考え方ですね…!最後に今後の展望をお聞かせください!
澁谷 そうですね…。子供の時、英会話をやっていたのに、英語が喋れないんです(笑)でもいつか、海外のイベントに出店をしてみたいですねぇ。今はまだイメージは全くつきません(笑)。
10代の頃からJICAにも憧れを抱いていました。海外の子ども達に教え、未来につなげる。それがマクラメだったら嬉しいですよね。
小さいときに見た大人や見知らぬ海外の人たち。大人になってからも、自分の感情に耳を傾け、知らない世界に入ってみて培ってきた知識。これからもそうして、あらゆるところに身をおいて、たくさんの人と交流していきたいです。
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carpediem運営者:高橋郁弥(Takahashi Fumiya)
2018年よりインタビュー記事をスタート。
個人事業主の方を中心に、なぜその仕事を始めたのか。
どんな想いを込めているのかをインタビューさせて頂いています。