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どんな人にも経験という歴史がある。その経験を書き記すことで人類にとって少しでもプラスになれるものを書いています。

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周囲に流された20年間。子どもたちには”自分で”人生を選択してほしい 橿渕歌世(38) ピアノ教室

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ある日、facebookからの連絡 

 今回インタビューしたのは、facebookから連絡をくださった橿渕歌世(かしぶちかよ)さん。現在は二児の母でありながら、ご自宅でピアノ教室を営んでいる。

 そんな歌世さんの半生は、周囲の大人が敷いたレールに乗るも徐々に疑問を抱いた10代。結婚をし、27歳の時に妊娠。時を同じくして訪れた祖父の死が自身の人生を顧みる大きなきっかけとなった。

 子どもたちにピアノの技術だけではない、失敗も楽しむことや、自ら選択することの大切さ。人生の意義のようなことも伝えている。

 

引っ込み思案の幼少期

 富士山の麓、人口2000人程の町に誕生。幼少期から引っ込み思案で、保育園ではいつもひとりぼっち。そんな娘に対して、母親が勧めたクラシックピアノがその後の人生を形作った。

 「ピアノ教室に3歳から通い始めました。とにかく、厳しい先生でした。長時間の練習で、硬いピアノ椅子に座るためお尻には痣ができる程でした。(笑)その分、愛情深く、初めて接した大人の美しい女性でした。『あんたみたいに特技のない子は私が一生面倒みていかなきゃダメ!!』と、言われた事は今も忘れられません」
 先生の事がとにかく大好き。期待に応えたい一心で練習し上達。いつしか自分に自信が持てるようになった。

 

徐々に悟った、レールの上を走っていた自分

 私立高校に進学し、武蔵野音楽大学に入学。学生時代はまさに音楽漬けの生活。

 しかし、いつしか純粋に好きだったピアノは、”人前で失敗したくない”という恐怖感に襲われた。

 大学時代は毎日8時間の練習。ピアノに触っていないと、『本番で失敗してしまうんじゃないか』。と考えてしまい、動悸は激しくなり脈も上がる。しかし、想うような結果は得られない。次第に自律神経に乱れをきたすようなった。 

 「『音大卒業後は結婚して、自宅でピアノ教室でもしよっ!』と本気で思っていたんです。ただ、大人になるにつれ、『これまでの人生は誰かが用意したもの』。と悟りました。それに乗って生きる自分と、本来の自分とのギャップもあって精神的に追い込むようになりました。『このままだと一生レールに乗った人生だぞ』。と焦ったのを覚えています」

 

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ピアノ教室にて、最初はほんの数人の生徒さんからはじまった


 

結婚と妊娠

 大学卒業後は、師匠のピアノ教室で働く予定だったが、東京に残りピアノ教室で働いた。

 「昔から子どもと接するのが好きだったのでとても幸せでした。どんどん吸収して上手くなる子どもの姿を間近で見れるのもやりがいのひとつでしたね。ただ、好きな事を仕事にしても、精神的な部分の回復に至ることはありませんでした」
 大学卒業して数年が経ち、ご主人様と出会い結婚。自律神経で体調を崩すときもあったが、順風満帆の生活がスタート。そして、27歳の時に第一子を妊娠。

 新しい命の誕生と共に訪れた祖父の死が、自分自身と真正面から向き合うことになる。

 

大好きなおじいちゃん

  ご両親は仕事が多忙だったため、多くの時間を祖父と過ごした。毎年夏休みは泊まりに行くのが恒例行事。当時の会話で忘れられないエピソードがある。

 「子どもながらに『人が死ぬ』。という事実を知る瞬間ってあるじゃないですか。その時に、とても悲しくて『おじいちゃんもいつか死ぬのかな?』と聞いたんです」

 すると「三途の川を渡って死んでしまうんだよ。でも、歌世ちゃんのことをそこで待っているよ」そう優しく話してくれた。

 「その部屋の情景、匂いを今でも鮮明に覚えています。どこか小さい時から『死』というのは私のキーワードだったと思います。だからこそ、レールに敷かれた自分の人生に焦りも覚えたんだと思います」

 

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幼少期の一枚。祖父は小学校の先生で音楽も教えていた。晩年まで様々な参考書を読む人だったという

 

必ず、人は死ぬ

 妊娠中期に差し掛かった頃、大好きな祖父が他界。初めて身近な人が死ぬというショックを味わった。 その瞬間、自分の心が崩れる音が聞こえた。

 「今まで見ない、感じないようにしてきた自分の心の闇が溢れてきました。『”本当に"人は死ぬ』。という事実。なにより、何も考えずに周りに流され続けた27年間が恐怖になりました」

 また、『いずれお腹の赤ちゃんも死んでしまう』という悩みも同時に生まれ、不眠症、食欲不振。体はどんどん痩せ細っていった。死んだ方が楽だと何度も過ったが、まだ見ぬ赤ちゃんがそれを食い止めた。
 

声に出せない想いをノートに綴る

 精神科が併設されている病院に転院。薬で精神を麻痺させていないと気が狂いそうになる。同時に、切迫流産が進行してしまい、24時間張り止めの点滴をぶら下げながら、トイレも車椅子。精神も肉体も憔悴しきっていた。

 絶えず、脳内には『なぜ、生きるのか』。『死後の世界はどうなるんだ』そんな言葉が湧き上がる。唯一の安らぎの方法はその想いをノートに綴ること。

 「人生観、生死に関する疑問に対して、その答えをひたすら書いていました。とにかく一日、一日を生きる事に精一杯です。寝る前になると、『なんとか今日もこの子の為に生きられた』。と安堵しました。しかし、今考えるとあの時ほど、毎秒戦い、自分の意志で生き抜いている瞬間を味わったことはありません」

 

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過去の出来事、未来に起きること

 次第にノートに書き続けるうちにひとつの答えが見えてきた。

 なにが起こるか分からない未来。過ぎ去った過去。それらに囚われても何も変わらないと気づいたそうだ。

 「子どもも将来自分のように悩み、そして苦しみ、『産まれて来なければよかった、、、』。と思う事を何より恐れていました。ただ、私の血肉を分けているものの、全くの別人だと悟りました。将来どのように物事を考え、何に苦しむのか。それは彼の自由であり私の介入することではないと思え、どこか肩の荷が降りました」

 

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「ぼくをひとりにしないで」

 10時間の陣痛を耐え元気いっぱいの男の子が誕生。産れた瞬間は愛おしさと同時に、『やっと私たち別の人間になれた〜!』とおかしな安堵を同時に覚えたそうだ。それ以降は、子育てに追われ、いつしか生と死に関する疑問などは飛び去った。

 「2時間毎に起き、ミルクを飲ませ、オムツを替える。それをしなければ息子は大声をあげて泣きます。その声が『あなたが世話をしなければ、僕は死んでしまいます』と、主張しているように聞こえるんです。そんな生活を続けていくうちに、私の精神も落ちつきを取り戻していきました」

 

自由に弾く楽しさ 

 小さい時から連れ添ったピアノ。子供が誕生し、今は我が子と時間を過ごすためのものに変化していった。

 「誰も私に『この曲をこんなふうに弾きなさい』。と指示しません。毎日練習しなくても誰も私を責めませんし、何より採点されません。ピアノを習い始めてから数十年経ち、好きな曲しか弾かない。という経験を初めてしました。すると、『私ってピアノを弾くのが好きだったんだな』。と、純粋に思えました。思うような結果が出ない事が多々ありましたが、努力をした過程で得たものが、確かにあったと思うようになりました」

 

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ポーランド・シレジア・フィルハーモニー管弦楽団とのコンサート



誰かの人生に変化を与えたい

 今でこそ、ノートに死生観を書くことはなくなったが、”この先どう生きたいか?”というテーマは今もあるようだ。周りが用意した人生。それに乗りながらも苦しみの時間を経験したことで、能動的な生を過ごしたいと思うようになった。
 「人との出会いの中で、成長し私という人間は変化してきました。少し傲慢かもしれませんが、たくさんの人達に変化を与え、他者の器に残りたいと感じるようになりました」

 その時、自分の特技であるピアノを用いて、子どもたちになにかを残そうとピアノ教室を開いた。敷かれたレールに元々あったピアノ教室だが、そこに至るまでのプロセスは全く違うもの。自身で心底望んだ結果であった。

 

さいごー自分が心の底から感じ取ったものを選択してほしい

 自宅でのピアノ教室は現在6年の月日が経った。3年前には次男も誕生。子育てに奮闘しながらも日々のレッスンが楽しいそうだ。

 「ピアノの技術だけでなく、人が持つ感情や思い。そういったことも同時に伝えるように務めています。時に、親御さんから『子供がピアノの練習が大変で辛くなってきたようです、どうしたら良いと思いますか?』と、ご相談頂く事もあります。その時は、『本人が本当にそう感じ、辞めたいと決めたのなら辞めて頂いても全く構いませんよ』。と、いつもお答えしています。前にも述べましたが、他人の人生を生きる事ほど辛い事はないと思うからです。全力で打ち込める好きなモノに出会ってほしいんです」

 

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